『トイ・ストーリー4』は前3作の呪いを解いたブロマンス映画であるという話

2020/05/16

Pixar

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さて、奇しくも先週金曜ロードショーで『トイ・ストーリー3』が放送された5月8日は、前3作でMr.ポテトヘッドの声優をされていた故ドン・リックルズ氏の誕生日であった。

彼は『トイ・ストーリー4』の収録前に亡くなったが、クリエイター達が過去20年あまりの映画・テーマパーク用音声・ゲーム用音声などから彼の演技を構築したそうだ。それだけ彼が、あのコミカルで短気で、でもどこか憎めない、「Mr.ポテトヘッド」そのものだったのだろう。
この場を借りて謹んでお悔やみ申し上げます。
『トイストーリー4』は前3作の呪いを解いたブロマンスであるという話





さて、という訳で今回はめちゃくちゃ批判を浴びた映画、

『トイ・ストーリー4』について少し話していこうと思う。


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前提として、映画単体で観ればこの映画は「面白い」。

ではなぜヘイトを集めているのか。まずは簡潔にそこから話していこうと思う。書き終わった後に読み返したら全然簡潔じゃなかったがとにかく聞いてくれ。



  • ピクサーの歴史


時は1作目の『トイ・ストーリー』が公開された1995年…………
ではなく、そのもうちょっと前、ピクサー設立の年1986年まで遡る。



ルーカスフィルム ピクサー


1986年当時、アップルを退社したスティーブ・ジョブズが目を付けたのが、『STAR WARSシリーズ(1977/80/83)』や『インディ・ジョーンズ(1984)』で一躍その名を馳せたルーカスフィルム社のコンピュータ・アニメーション部門だった。
ルーカスフィルムはCGより実写映画に力を入れたかったため、そしてジョージ・ルーカスが別れた妻への慰謝料の資金調達をするため、当時目立った功績を残していなかったこの部門を1000万ドルで売却する。


ピクサー設立にスティーブ・ジョブズが関わっていると言うと、そのあたりに明るくない人には高確率で「え?なんで?iPhoneの人じゃん」と言われがちだが(自社調べ)、彼は元々CGアニメを製作するより、企業や政府用のCG製作ソフト開発の方に目を付けていた。






そしてこのCG製作ソフトを顧客として利用していたのが、何を隠そうウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオだ。


ピクサー社の太客だったディズニー。
この力関係が『トイ・ストーリー』シリーズの製作に大きく関わっている。






買収以降ソフトウェアの売り上げが思うように伸びなかったピクサー社は毎年100万ドル程の赤字を出し、最終的にビコム・システムとかいうよくわかんない会社(本当に調べても出てこなかったがペーパーカンパニーか何かだろうか?)に売却され、そして何とかディズニーに2600万ドルの資金援助をしてもらい、ディズニー配給で映画を製作した。


もし失敗すれば、次はない。
クリエイター達はそんな後が無い状況でなんとかCGアニメーションを作り上げた。




それが『トイ・ストーリー(1995)』である。

『トイストーリー4』は前3作の呪いを解いたブロマンスであるという話



長い前置きを読んでくれてどうもありがとう。ここからはトイ・ストーリーの話しかしないよ。







さて、ここで先程話した「ディズニー>ピクサー」の力関係が重要になってくる。ディズニーは『トイ・ストーリー』の予算の10倍ものヒットにめちゃくちゃ驚いた。それもそうだ。今までの「ディズニー配給他会社製作作品」は、ことごとく不発だったからだ(これは話が長くなるので割愛する)。


そしてディズニーはこのチャンスを逃すまいと、すかさず2の制作にとりかかろうとした。ここで私たちは気付く訳だ。

で、でた〜!!!!!!!!!
ディズニーさんお得意の「低クオ続編で荒稼ぎ」作戦だ〜!!!!!!!!!!!!!!!




コホン。
そしてオリジナルビデオのみで劇場公開されない予定だった、低クオリティディズニースタイルの『トイ・ストーリー2』が、ラセター激怒により全面的に作り直され現在の『トイ・ストーリー2』になっている。







つまり何が言いたいかと言うと。


『トイ・ストーリー(1995)』が公開された時点で、
ピクサーは続編を製作するなんてことは1ミリも考えていなかったということだ。





  • トイストーリー前3作の呪いについて


『トイ・ストーリー』の終盤、ウッディは「自分はスペースレンジャーではなくただの玩具だ」と知ってしまい失意に沈むバズに向かってこう言う。



スペースレンジャーなんかよりオモチャのほうがずっといい。
スペースレンジャーじゃなくたって、アンディにとっては君が一番なんだ。と。

自分のアイデンティティよりも何よりも、ウッディは"アンディのオモチャでいること''こそが幸せだとアッサリ言いのける。






オモチャはオモチャでいることが幸せ。
誰かの一番として、持ち主を傍で見守るのが幸せ。




このウッディのセリフこそが、『トイ・ストーリー』シリーズにおける''呪い''そのものとなってしまったのだ。



恐らく『トイ・ストーリー』の制作が開始された当初に1〜4までのシリーズ作品となることを想定していれば、この大胆かつ愛の深い台詞は生まれてこなかっただろう。
だって『トイ4』のラストでこのセリフを否定してしまったんだから。



だから『トイ4』でウッディがバズたちを置いてレリゴーしてしまったことに対して、「今までの話はいったい何だったの?」「ウッディが仲間を見捨てることなんてあり得ない!」「ウッディがオモチャとしての役割を放棄するなんてありえない!」と方々から野次 批判が飛ぶことになったのだ。




  • ウッディは基本的に精神不安定な「いい奴」


さて、そんな批判を多く受けた本作だが、私にとっては違和感がある。
それは批判の内容についてだ。



「ウッディは仲間想い」というが、果たして本当にそうか?と。




確かにウッディは「いい奴」だ。
1では自分の立場を奪ったバズとも最終的に相棒になるし、2ではウッディなしでは価値のないオモチャのために、博物館に行くことを決断するし、3ではピクサーでも珍しい真性のクズキャラ・ロッツォハグベアの命を2度も助ける。見捨てない。

しかし、「仲間想い」かと言われるとそうでもないのだ。
彼は2では博物館行きを決めるが、それはつまりアンディの元を離れるということだ。しかもその決断をしたと思いきや「やっぱりみんなで帰ろう!」と言い出す。3ではアンディのために家に帰るが、その際まともに話し合いもせずカッとなってオモチャ仲間を置いていく。もちろん、彼のこの"ブレブレな性格"がわりとディズニーアニメにおける人間味のあるキャラ作りに効果を齎していることは明らかなのだが、ウッディの決断は基本的にブレブレなのだ。何なら4でレリゴーしたけど5でフツーにアンディの家に帰って来てもおかしくないくらいである。(5があるかは知らない。)



だからトイ4に対して「仲間を見捨てないウッディがバズを捨ててレリゴーするなんて可笑しい!」と怒るのは、些かウッディのことを買い被りすぎではないか?と思うのだ。





  • ウッディ未亡人説


他にも「ウッディがオモチャとしての役割を放棄するなんてあり得ない!」という意見があった。

先述したセリフや彼の振る舞いなど、常にオモチャとしての役割を全うした彼が誰のものでもなくなる、という結末に難色を示している方が多かった。



しかしこれは甚だ見当違いである。



そもそも3で彼がアンディの元を去ったのは「遊ばれるおもちゃで居たかった」からか?「オモチャとしての役割」のためか?違う。「アンディの成長を願っていたから」だ。願っていたからこそ、大学生になった彼にはそぐわない、オモチャでしかない自分は身を引くのだ。



彼はアンディと共に、アンディのために生きた。
そして他の奴(ボニー)に引き取られても、アンディの写真を見ては彼のことを思い出し感傷に浸る。さらに彼はボニーの元も離れ、アンディとの別れの後は結果的に''誰のものにもならなかった''のだ。


さながら夫に先立たれた未亡人のような、一途で強かな振る舞いである。



離れていても そばにいるよ。
JUJUの「やさしさで溢れるように」が聴こえてきそうな勢いだ。


『トイストーリー』はシリーズ全編通して、ウッディとアンディのブロマンス作品だったのかもしれない。




そもそもウッディが常にアンディのことを想い寄り添い続けてきたのは何故か?それは「アンディがウッディのことを必要としてくれた」からである。『トイ3』のバービーの言葉を借りるとするならば、好意というのは一方ではなく、想い合う2人の同意から生まれるべきよみたいな。全然上手いこと言えていないが、とにかくウッディがボニーの元を離れたことを、ウッディだけの責任にするのは間違っているのだ。ボニーがクソという意見については子供ってそういうもんだから仕方ないとしか言えない。




  • 最後に+薄い感想


さて、「『トイ・ストーリー』はかなりの批判を浴びた」という前提でここまでお話をしてきたが、実は海外ではめちゃくちゃ高評価だった。例えば大手映画批評サイトRotten Tomatoesでは『トイ・ストーリー』が99%高評価だったのに対して『トイ・ストーリー4』は98%と、普通に健闘している。



トイ4が多くの批判を浴びているのは日本独自の文化っぽい。
国民性か何かだろうか詳しくはわからないが、こういうところでお国柄が出るのも割と興味深い映画の楽しみ方だなと思う。



個人的な感情で言わせてもらえば、筆者が最初に4を見終わった時の感想は「ふぅん…….」くらいしかなかった。批判とか感動とかも特になく、ふぅん。
確かに面白かった。けれど特に圧倒されることはなく終わった。ウッディがレリゴーするのもなんとなく予想がついていたので、そこにもっとバズとの感動バディ物語や何やらが展開されるのかと思いきや、特にそんなこともなくあ、エンドロールだ。みたいな。【追記】3回目鑑賞後バズとウッディが抱き合うとこでメチャクチャ泣いてしまった。バズのあの表情はしんどすぎる
ここまでトイ4を擁護してきたのにいきなり悪口みたいなこと言ってすまん。でもウッディも割とこんくらい意見がブレブレなキャラだと思ってる。


「トイ4観て悔しくて泣いた」って人もいて、まぁ確かにウッディが大好きな人は序〜中盤は見てられないだろうなと思った。集団いじめの被害者みたいだったもん、あの子。





あと日本版ポスターについては今後100年文句を言おうと思ってる。
あれだけポスターに煽られたけど、結局"本当のトイ・ストーリー"って何だったのか未だに解っていない。想像も超えなかったし、何故ウッディの隣に特に活躍ゼロのバズを配置したのかも割と謎である。てかこのポスター見たら割と「あ、ウッディ外界で生きるんだな」って想像できちゃうのでは?相変わらずディズニー・ジャパンって頭おかしいんだなと再確認できた。




『インクレディブルズ2』の時もそうだったのだけど、期待を超えないまま予想の範疇で終わったなぁって感じ。まぁ今のピクサーは『リメンバーミー』で燃え尽き症候群起こしてそうな雰囲気が凄いから気長に待つとしよう。






あと普通にウッディたちがアンディの子供をてんやわんやしながらお世話する続編『トイストーリー5』はめちゃくちゃ楽しみにしている。

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ディズニーファンの父親の影響で0歳の頃からディズニーアニメ漬けの毎日を送っています。
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